- 納品は三点構成です。入稿データ、編集可能な元データ、そして仕様書。
- 5 年後に効いてくるのはベクターのロゴデータです。ラスターのみのロゴは負債になります。
- 制作側の書体ライセンスは発注側に移転しません。これは明示的に解決が必要です。
- 色は言葉ではなく数値と参照番号で指定します。
デザイン案件の価値は、終わった後に、その案件に関わっていない人によって使われることで実現します。何が納品されるかが、それを可能にするかどうかを決めます。
完全な納品には何が含まれるか
三つの構成要素です。製造用の入稿データ、編集可能な元データ、そして使用方法を記した仕様書。データだけでは納品として不十分です。判断の理由とルールが記録されないためです。
入稿データ
- 塗り足しとトンボ付き、CMYK、書体は埋め込みまたはアウトライン化した PDF
- 品目ごと、言語ごとに 1 ファイル
- 特色を指定した場合は特色版の分版
元データ
- 使用アプリケーションのネイティブ形式、レイヤーを保持
- リンク画像は原寸解像度で同梱
- ロゴのマスターデータはベクター形式
仕様書
- 各カラーシステムでの色数値と、実物の参照見本
- 書体、ウェイト、ライセンスの状態
- ロゴのアイソレーション、最小サイズ、許容される派生形
- 各印刷物の用紙、斤量、加工
ロゴはどの形式で受け取るべきか
ベクター形式です。ベクターは劣化せずに拡大縮小でき、名刺から建築サインまで同じデータで対応できます。ラスターのみのロゴは、ブランドができることに恒久的な上限を課します。
実用上は四つの状況をカバーします。印刷製造用のベクターマスター、ウェブ用のベクター形式、ベクターを受け付けない環境用の高解像度ラスター、そして画像の上に置くための背景透過版です。
それぞれにフルカラー版、単色版、白抜き版が必要です。最も欠けやすいのが単色版で、しかも箔押し、エンボス、単色印刷で必ず必要になるのがこれです。加工の要件は台湾の印刷事情をご覧ください。
色はどう指定すべきか
使用する各カラーシステムでの数値と、実物の参照見本の両方を記録します。言葉による色の説明は仕様になりません。同じ説明から二人が同じ色を再現することはないためです。
最低限、印刷用の特色番号、4 色印刷用の CMYK 値、画面用の RGB 値、ウェブ用の 16 進数を記録します。これらは完全には一致しません。色空間が異なるためです。一致が重要な場面では印刷側の指定が優先し、画面の数値はその近似値として扱います。
どの用紙で承認したかも記録します。同じインキでも塗工紙と非塗工紙では発色が異なるため、片方で承認した色がもう片方で自動的に承認されたことにはなりません。
書体のライセンスは誰が持つのか
制作側が保有するライセンスは、制作側の使用のみを対象とします。アイデンティティが商用書体に依存する場合、発注側名義でのライセンスが別途必要です。
これは納品時に最も多く見つかる不備であり、しかも最悪のタイミングで表面化します。社内の方がデータを開いて書体が無いとき、あるいは新しい取引先に製作を依頼したものの、正規にインストールできないときです。
解決策は三つあります。仕様の段階で発注側名義のライセンスを取得する。オープンライセンスの書体を選び、問題自体を無くす。あるいはロゴをアウトライン化し、固定されるのはロゴのみで、システム全体の書体は固定されないことを受け入れる。
いずれを選んだかは、ライセンス条件とともに仕様書に記録します。ライセンスによっては買い切りではなく、閲覧数や利用人数に紐づく形態があるためです。
権利はどこまで移転するか
権利の扱いは納品時ではなく、着手前に契約で定めます。一般的には、最終承認された成果物は残金のお支払いをもって発注側に移転し、採用されなかった案は制作側に残ります。
契約内容にかかわらず移転しない領域が二つあります。書体やストックフォトなど第三者の構成要素は、所有ではなく特定の主体への使用許諾であり、独自の条件を持ちます。また、公共調達など発注側自身の契約上の制約のもとで制作された案件では、その制約が事後の掲載可否にも影響することがあります。
提案書での扱いは見積もりと範囲の考え方をご覧ください。
データはどう整理すべきか
形式別ではなく用途別に整理します。3 年後にフォルダを開く人が探しているのは拡張子ではなく、やりたいことだからです。ファイル名は規則的にし、版の日付を含めます。
実務で機能する構成は、ロゴマスター、入稿データ、元データ、仕様書の四つに分ける形です。ロゴマスターの中は形式別ではなく色の版別に分けます。選ぶときの基準が版だからです。
「最終」「最終版2」といった名前は避け、日付を使ってください。些細に見えますが、取引先が誤ったデータで印刷して初めて重大さがわかります。
よくあるご質問
作業データももらえますか
契約によりますので、着手前に決めておくべき事項です。弊社の既定では、承認された成果物の元データは含みます。これが無いと発注側で後から変更ができないためです。採用されなかった方向の検討データは通常含みません。
データを紛失した場合はどうなりますか
制作側が保管しているか、保管期間はどれくらいかをご確認ください。ただし、それを唯一の控えとしないでください。より重要なのは仕様書です。良い仕様書があればデータは作り直せますが、ルールの不明なデータからは再現できません。
社内でデータを編集できますか
同じアプリケーションと必要な書体ライセンスがあれば可能です。障害になるのは通常、書体ライセンスです。社内編集が要件であればブリーフィングの段階でお知らせください。書体の選定に影響します。
仕様書はどの程度詳しく書くべきですか
デザイナーと一度も話したことのない業者が、正しく製作できる程度です。これが実務上の判断基準になります。質問が必要になる項目は、仕様書に書かれるべき項目です。
執筆者について
台湾・台中の好心地文創が作成しました。書体ライセンスと単色ロゴ版を強調しているのは、前任の制作会社から引き継いだブランド資産を点検する際に、最も多く欠けている二点だからです。