- 台湾と日本の時差は 1 時間です。当日中のやり取りが成立します。
- 各工程の終わりに書面の成果物と、ひとつの明確な意思決定の依頼を置きます。
- 遅延の主因は距離や言語ではなく、承認の曖昧さです。
- 修正は関係者の意見を社内で調整してから、一度にまとめてお送りいただくのが最も速く進みます。
海外の事務所に依頼するときの不安は、たいてい距離そのものではなく、進捗が見えなくなることにあります。台湾との案件では時差が 1 時間しかないため、その不安の大半は構造的に解消できます。
ここでは日本のお客様との案件をどう進めているかを説明します。
時差はどの程度あるか
台湾は UTC+8、日本は UTC+9 で、時差は 1 時間です。日本の午前中に送った質問には、その日のうちに回答が返ります。
これは欧米の事務所に依頼する場合との実質的な違いです。欧州とは日本の営業時間の重なりが限られ、北米とはほぼ重なりません。台湾であれば、午前に相談して午後に方向を決めるという進め方が成立します。
祝日は異なります。台湾の旧正月は 1 週間程度の休業となり、時期も年によって変わります。この期間を跨ぐ案件では、日程に明示して共有します。
案件はどのような順序で進むか
ブリーフィング、戦略、デザイン方向、展開、納品の五段階です。各段階の終わりに承認の関門があり、書面での承認なしに次へは進みません。
- ブリーフィング:通常は打ち合わせ 1 回。その後、内容を書面にまとめてご確認いただきます。以後の基準になるのは打ち合わせではなく、この書面です。
- 戦略:立ち位置、対象、そしてデザインを評価する基準を定めます。基準を先に合意しておくことが、デザインの検討が好みの議論になるのを防ぎます。
- デザイン方向:通常 2 案から 3 案。それぞれ合意した基準に沿った根拠を添えます。1 案をお選びいただき、他は展開しません。
- 展開:選ばれた方向を、名刺を含む合意済みの成果物へ展開します。
- 納品:データ、仕様書、使用ルール。詳細は納品データと権利をご覧ください。
なぜ書面でのやり取りを重視するのか
時差が小さくても書面を基準にするのは、速度のためではなく、決定事項を記録に残すためです。誰が、いつ、何を根拠に決めたかが残っていれば、後から遡る必要が生じたときの手戻りが小さくなります。
各段階の引き渡しに含めるもの
- 作成したもの(データそのもの)
- 前段階から今回までに行った判断と、その根拠
- 今回お願いする意思決定(選択肢を添えた問いの形で)
- 決定後に何が始まるか
- 決定されるまで何が止まるか
四点目と五点目が特に重要です。判断の遅れが何を止めるかが見えていると、決定は早く、かつ十分な情報のもとで下されます。
修正はどのように扱うか
修正回数は段階ごとに契約で定めます。1 回とは、まとめてお送りいただく一式の指示を指し、個別に届く指摘の連続ではありません。
お願いしたいのは、社内の関係者の意見を調整したうえで一度にお送りいただくことです。順次届くご指摘は互いに矛盾することが多く、その調整は制作側では代行できません。
合意した基準に照らしたご指摘は対応可能です。「この青が好みではない」というご指摘は、その青が制約として事前に挙げられていない限り、対応の方向が定まりません。「法人のお客様に対して上質に見えない」であれば作業できます。
やり取りは何語で行うか
国際案件では英語を基本としています。日本語でのご連絡にも対応しますが、正式な仕様書と成果物は英語での提供となる場合があります。この点は着手前に確認させてください。
言語が進め方ではなく設計そのものに影響するのは、多言語アイデンティティの場合です。日本語と欧文では組版の挙動が異なるため、これは設計上の課題として扱います。詳細は多言語アイデンティティの設計をご覧ください。
進捗はどう共有されるか
各段階に成果物と目標日を設定し、引き渡し時に書面で状況を報告します。遅れが出た場合はその理由も含めて報告します。
進捗を割合では報告しません。デザインの段階は「何割できた」という状態を持たず、判断できる状態にあるか、まだないかのどちらかです。承認の関門を基準に報告するほうが、実態に即しています。
遅延はどこで起きるか
主な原因は三つで、承認の曖昧さ、関係者の参加が遅いこと、既存素材の不足です。いずれも距離が原因ではありませんが、距離があると影響が拡大します。
- 承認の曖昧さ:「良いと思います」の後に修正が続く場合、それは承認ではありません。関門には明確な可否が必要です。
- 関係者の参加が遅い:展開段階で初めてご覧になった方は、戦略段階の論点を提起されます。通過済みの関門に戻ることになります。
- 既存素材の不足:ロゴがラスター形式しかない、書体のライセンスが移転できない、といった問題は製造段階で表面化し、そこで工程が止まります。
三つとも前倒しで防げます。承認者を先に確定し、その方に戦略段階から入っていただき、既存素材の点検を納品時ではなくブリーフィング時に行うことです。
よくあるご質問
直接お会いする必要はありますか
必須ではありません。アイデンティティの案件は完全に遠隔で進められます。対面が有効なのは、物理的な空間や製品の理解が前提となる案件のブリーフィング段階です。デザインの検討はむしろ書面のほうが精度が上がります。
返信までどのくらいかかりますか
案件進行中のご連絡には台湾の 1 営業日以内に返信します。時差が 1 時間のため、多くの場合は同日中の返信になります。
日本の印刷会社や代理店と組めますか
可能です。入稿データと仕様書をお渡しし、そちらで製造いただく形にも対応します。責任が分かれる場合は、色の最終承認を誰が行うかを事前に決めておくことをお勧めします。実務上の争点はほぼそこに集中します。
開始にあたって何が必要ですか
既存のブランド素材を元データ形式で、必要な成果物の一覧、承認権限をお持ちの方のお名前、そして納期や既存の書体ライセンスなどの制約条件です。素材の点検は丁寧に行う価値があります。後から発覚する不足が最も影響が大きいためです。
執筆者について
台湾・台中の好心地文創が作成しました。ここで説明した進め方は、決定事項を書面の関門として残すことで手戻りを減らすという考えに基づいています。